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昨年末12月27日に87歳で亡くなった、エストニアを代表する文学者ヤーン・クロス
(Jaan Kross)氏の葬儀が1月5日、タリン市のカールリ教会でしめやかに執り行われ、
その模様はエストニア全土にテレビ中継された。イルヴェス大統領は「クロス氏は常に
心の新鮮さを持ち続け、エストニアの独立回復を促してくれた一人」と表した。
詩人として、また歴史散文小説作家として世界に広く知られているクロス氏の作品は
23ヶ国語に翻訳されている。タルト大学名誉博士 (1989),ヘルシンキ大学名誉博士
(1990)でもあり、ノーベル文学賞に度々ノミネートされた。
1920年に生まれたクロス氏は第二次世界大戦前にタルト大学で法律を学び、大戦中は
度重なるナチスドイツ軍とソビエト軍両方からの召集をアルコール、薬物常習を装っ
て免れたが、通訳者として使われたこともあった。しかしその後投獄され、ナチスか
らの幽閉から逃れることができず、後にクロス氏は「復讐を求める者のみ外の国へ出る。
真に大切なものを求める者は祖国に留まる」と書いていた。
ドイツ語が堪能だったため第二次世界大戦後、ソ連の統治下にあった1946年から1954年
にかけて政治犯として投獄されシベリアに抑留されていた。解放後再び詩や詩の翻訳活
動を再開し、60年代になると史実を細かく描写した歴史人物に基づく小説を書き始めた。
90年代の独立回復期には一時政治の世界に入るが、すぐに小説や翻訳作業に還りタルト
大学で教鞭を執った。
代表作には,タリンの聖職者バルタサル・ルソウ (16世紀) を扱った 『三度の疫病の
合間』 (全4巻,1970-1980),エストニアの貴族ティモテウス・フォン・ボック (18世
紀末~19世紀初期) を主人公とする 『皇帝の狂人』 (1978),エストニア出身の国際法
学者マルテンス (19世紀後半) を主人公とする 『マルテンス教授の旅立ち』 (1984) などがある。
『狂人と呼ばれた男』 沢崎冬日訳,日本経済新聞社,1995 (原題『皇帝の狂人』)
『マルテンス教授の旅立ち』 藤野幸雄訳,勉誠出版,2000
Yaan Krossのプロフィールを見る。(松村一登ホームページ)